小説家の筆が描いたまち。書かれた時代と現在。土地の風土と作家の視座。
「名作」の舞台は、その地を歩く者の眼前に何かを立ちのぼらせるのだろうか。
*この連載は、作家の合田一道氏が主宰するノンフィクション作家養成教室「一道塾」(道新文化センター)が担当しています。
第31回

(日本語) ひかりごけ(武田泰淳)

あらすじ

小説の取材に羅臼町を訪れた作家が、戦時中に起きた事件を知る。その事件とは、冬の知床沖で軍の徴用船が難破し、船長だけが奇跡的に生還したものだ。しかし、船長は死んだ仲間3人の肉を食べた疑いがもちあがり、裁判にかけられる。前半部は紀行文、後半部は戯曲の構成をとっている。 この小説は、昭和19年に知床半島で実際に起きた「知床食人事件」をモデルにしている。「世界でも唯一」とされる人食を問われた裁判で、船長は死体損壊の罪で懲役1年の実刑判決を受けた。ただし、船長が食べたのは1人だけであり、この作品によって、誤った風評が広がった一面もある。

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武田泰淳(たけだ・ たいじゅん)

1912-76。東京生まれ。1933年、中国文学研究会を創設。1943年「司馬遷」刊行。人間への鋭い洞察力で、聖と悪を多元的にとらえ、戦後派の代表作家となる。他に代表作として「森と湖のまつり」「富士」「快楽」などがある。
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