コーヒー豆の焙煎体験ができる喫茶店

白石の住宅街にコーヒー豆の焙煎体験ができる喫茶店「焙煎研究所」がある。店名も外観も喫茶店のイメージがないので「コーヒーは飲めるんですか?」と、不思議そうに客が入って来ることもあるそうな。店の横に温室をつくり、主にアラビカ種のコーヒーの木を栽培までしている。オーナーの吉田元海さんは「自家焙煎を自宅やキャンプ場でも気軽に楽しめるような文化を広めたい」と語る。広めたくなるような楽しさはどこにあるのか、実際にコーヒー豆の焙煎を体験してみた。
矢島あづさ-text 伊藤留美子-photo

焙煎機のショールームとして喫茶店を始めた

「焙煎研究所」をオープンしたのは2017年7月。白石区の中でも古くから住む人の多い地域に店を開いたのはなぜだろうか。「実は、この店は板金工場の白石製作所が母体。定年後にカフェを開く予定の方から焙煎機の依頼があり、その開発をきっかけに自分で焙煎するおもしろさを知り、自社製焙煎機のショールームのつもりで、祖母の家を改装して喫茶店を始めました」と、白石製作所の三代目社長でもある吉田元海(よしだ・もとみ)さん。店名もそうだが、店に入った瞬間、何となく“モノづくり”へのこだわりを感じたのは、そのせいだったのかと納得した。

「うちの焙煎機の特徴は、遠赤外線のガスコンロを使用すること。一般的なブタ窯と呼ばれるガス直火式は、豆を入れるドラムが鉄板でできていて、鉄板の下から焙って豆を焼きます。この焙煎機の中は網目になっていて、備長炭と同じ遠赤外線で直に豆を焼くことができます」。つまり、遠赤外線により豆の内部までじっくりと加熱できるため、繊維を壊すことなく豆本来の味が楽しめる。雑味や渋みを抑え、香り、甘さ、旨み、コクなどを引き出す焙煎が可能なのだ。

「僕は喫茶店で修業したこともないし、本当はコーヒーが苦手。どちらかといえば、紅茶や日本茶の方が好き」と笑う。だからこそ、自分が飲みやすいと感じる焙煎度合を考えるため、コーヒーが苦手な人からも「この店のコーヒーは飲める。飲んでみたら、おいしい」と言われることも多い。「コーヒーの場合は、うんちくを語り始めたらキリがない。あまり常識やルールにとらわれず、自分の好きな味を自由に試せるのが、自家焙煎のおもしろいところ」と吉田さんは言う。

大学卒業後、東京の派遣会社に4年勤務。子どもが生まれたのを機に札幌へ戻り、吉田さんは家業を継いだ

内装も椅子もすべて自分で手掛けたカウンターのあるスペース。この空間で焙煎体験ができる

窓からの陽射しが明るく居心地の良さそうなテーブル席

豆の色も香りもハゼの音も変化を楽しむ焙煎機

焙煎体験を始めたのは、店をオープンして5、6カ月経った頃。「一般的に自分でコーヒー豆を焙煎する習慣はないので、もっと身近に感じてもらうには体験してもらうしかない。庭にピザ窯をつくるのと同じ感覚で焙煎機を置いてもらいたいし、キャンプ場に持っていけばバーベキューコンロの上でも焙煎できる。マニアックな人たちだけでなく、もっと多くの方に焙煎の文化を広めたい」と吉田さん。焙煎機開発の試行錯誤については、別記事「北の名人図鑑」で紹介するとして、まずはレクチャーを受けながら、遠赤外線による焙煎を体験することにした。使用する生豆はコロンビアのクレオパトラ。初心者でも焙煎しやすく、ハゼの音(豆が膨張・収縮してはじける音)も聞きやすいからだ。今回は好みの「深煎り」に挑戦した。

改良を重ねて家庭用に小型化した4号機。これで焙煎体験を行う

予熱は220~230℃、まずは生豆の選別から
1. ガスコンロの火をつけ、焙煎機内の温度を220~230℃程まで上げる。
2. 生豆を選別し、虫食いや欠けている豆を取り除き500gにする。

生豆の段階で選別しておくと、雑味やえぐみが減るんですよ。


最初の5分はハンドルを左右交互に20回ずつ
3. 投入口から生豆を入れ、緑のレバーを閉める。
4. 最初の5分は水分を飛ばす蒸らしの時間。焼きムラができないように、ハンドルを一定の速度で左右交互に20回ずつ回す。

豆を入れると、温度は一旦190~180℃くらいに下がります。ハンドルを左回しにすると窓から豆のようすが見える。右回しにすると豆は奥に行き、火元が近くなる。窓で焼き色を確認できるのも、この焙煎機の特徴です。

チャフ(豆の薄皮)が落ちるので雑味がでない
5. しばらくすると、両脇から豆の表面のチャフがパラパラと落ちてくる。香りが出てきたら、窓から焙煎状況を確認しながらハンドルを回す。
6. 5分経ったら煙突のダンパーを開けて、温度を上げていく。ここからは右回しを多めにする。

気密性のない焙煎機なので、チャフが焼けずに落ちる設計になっています。だから、チャフの焦げた臭いが豆に付かず、雑味のないコーヒーになるんです。




10分くらい経つと1ハゼが聞こえ始める
7. 水分が抜けて豆は小さくなり、色も薄っすらベージュになり始める。焙煎が進むと豆からガスが発生するので豆が膨らみ、パチンパチンと爆ぜていく。これを1ハゼと呼ぶ。
8. 1ハゼは2分ほど続き、豆の色もだんだん濃くなってくる。この段階で取り出すと「浅煎り」になる。

1ハゼのタイミングで豆が広がるので、割れ目に残っていた白いチャフも全部落ち切ります。「浅煎り」は酸味が強く、野性的な味がします。この豆の場合は、あまりお勧めできません。

2ハゼが落ち着いたら「中深煎り」
9. ここからは、どちらに回してもあまり焙煎に影響はない。豆の色を見ながら焙煎しても、左右交互に20回ずつ回してもよい。
10. プチプチと2回目のハゼがたくさん鳴り始めたら、豆が見える左回しにし、豆の表面が黒くなる現象を抑える。2分ほど続いた2ハゼが落ち着いた頃に取り出すと「中深煎り」になる。

豆の色がどんどん変わっていくのが見えるので、自分で焙煎しているという実感がわくはず。ハゼの音の変化も感じられ、焙煎が進むと豆が軽くなるのでハンドルも楽に回せるようになります。


豆に照りが出てきて窓に5粒以上付けば「深煎り」
11. 2ハゼが終わってから1分ほど焼くと、豆から脂がにじみ出て表面に照りが出てくる。さらに2、3分焼くと豆が黒くなり、窓に5粒以上付いたら「深煎り」として取り出す合図。
12. 焙煎した豆をザルに取り出し、熱で焙煎が進まないように冷却装置で一気に冷やす。
13. 100g・200g用の袋に豆を詰めてシールを貼れば出来上がり。

豆は深煎りするほど軽くなって脹らむ。今日は500gの生豆が358gになったので、かなり深いですね。他社の焙煎機は2ハゼが終わってうかうかしていると豆が燃えて炭になりやすい。うちの焙煎機は炭になることは、まずありません。豆は焙煎して2日目くらいから飲み頃になります。

うちで収穫したコーヒー豆で焙煎してみたい

焙煎体験が終わり、ふと横のガラス窓を見ると、うっそうとした緑の木になる赤い実が目に留まった。「え?もしかしてコーヒーの木ですか?」。「そうです。真ん中の葉が密な木は希少なティピカ種らしく、周りはよくあるアラビカ種。コーヒーは枝ごとに花が咲いて、咲いた順番に実になっていく。冬は成長がピタっと止まりますが、3~10月の間は、赤くなった順番にずっと収穫できます。果肉がほとんどなくて、実というよりも種が主役。最初に収穫した人は、食べるところがなくて驚いたでしょうね。それで種の利用を考えたのかもしれないな。ちょっと食べてみます?」と、10粒ほど収穫してくれた。

さっそく口の中に放り込んでみると、確かにコーヒーの実は種が主役だ。サクランボの果肉部分がほんの少し皮についている感じ。そして、ほんのり甘い。「そうなんですよ。これだけ甘みがあるなら、とてもおいしい豆になるはず。そう信じて、本格的な栽培を始めようと思って、今、別の場所に温室をつくっています」と吉田さんの目が輝く。近くの中古住宅を手に入れ、1階と2階の床を外し、コーヒーの苗を植えられるように土台の土を整え、日が入るように壁の一面をガラス張りにするなど現在改装中だ。

父が植えたコーヒーの苗は、4年ほどで背を悠々と超えるほど大きく成長した

ジャスミンのような白い花が咲き、真っ赤に熟した実はコーヒーチェリーと呼ばれる

吉田さんのコーヒー栽培拡大計画の始まりは、こんな理由だ。「生豆を選別するとき、たくさん捨てなければならない。その捨てる豆にもお金はかかっているわけで、ダメな豆も地球の裏側から運んでくるなんて無駄じゃないですか。コーヒーの生豆もどんどん値上がりしているし、生産量も減少しています。世界的にコーヒーが足りなくなる時代を考えたら、自分で育ててみようかな」と。「なければ、自分でつくる」それは、モノづくり精神のキモである。「焙煎研究所」を生んだ創業70年の「白石製作所」にも、お邪魔することにした。

連載:北の名人図鑑 vol.26「焙煎機もキッチンカーもステンレスの強みを生かす」 (2024年8月28日公開)

◆焙煎初体験プラン 生豆 500g 2000円 焙煎時間/約20分間(所要時間1時間)
※生豆は「コロンビア クレオパトラ」を使用。
※スタッフが指導するので、どなたでも体験できます。
※焙煎した豆(焙煎により100gほど減少)は、袋に詰めてお持ち帰りできます。
※予熱に20分ほどかかりますので事前にご予約ください。

◆セルフ焙煎プラン 焙煎料1回500円 または 2時間1500円
※生豆の持ち込み可能。店の生豆を購入することもできます。
※焙煎後の豆を詰める袋もご用意ください。
※予熱に20分ほどかかりますので事前にご予約ください。


焙煎研究所  
北海道札幌市白石区本通3丁目北3-26 
TEL:080-4109-5079(店舗用携帯)
FAX:011-590-1033
営業時間:10:00-16:30
定休日:日曜日、月曜日
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