広大な牧草地。鮮やかな実りの丘。北海道らしい“大地”の風景を目にする機会は多いほうだ。それでも、この景色を目の前にすると圧倒される。
上川町旭ヶ丘。視線の先の大雪山連峰は、その山容が分かるほど近い。山々をバックに広がる丘陵地帯は、あらためて北海道農業のスケールを感じさせる。しかも、この一帯は電柱が地中化されているので、カメラマンにはたまらない景勝地だ。
「上川町のまちづくりには、旭ヶ丘の活性化が不可欠だと、佐藤芳治町長の構想が動き出したのが10年前。それが旭ヶ丘プロジェクトです」。そう話してくれたのは、谷博文副町長。
旭ヶ丘プロジェクトの基本は、おんせんば(層雲峡)-まきば(旭ヶ丘)―まちば(市街地)をつなぐこと。民間からの提案も含め、数多くのプランが検討された結果、景観と農業を生かす「ガーデン」と「レストラン」が事業の骨子となった。
「旭ヶ丘は町を支える農業地帯。農業に影響が出るプランでは本末転倒になります。観光と農業のバランスを考えて、たどり着いた答えがガーデンでした」と谷副町長。
ガーデンデザインは、「風のガーデン」でも有名な上野砂由紀さんが協力。レストランは三國清三(みくに・きよみ)シェフがプロデュースすることになり、2013年にオープンしたガーデンとレストランはおおいに注目を集めることになった。
旭ヶ丘の10年は、けっして順調に進んできたわけではない。そもそも、小さな町の壮大なプロジェクトに、三國シェフが関わると、最初から決まっていたわけでもない。
「観光大使を務め、日本各地を見てきた三國シェフがよく言うのは、『尋常じゃない情熱がないと町おこしはできなない』。三國シェフが上川町のお話を引き受けたのは、その情熱を感じたからだと思います」と話してくれたのは、レストランを運営する三國プランニングの代表、塚原敏夫さんだ。
佐藤町長と何度も話し合いを重ね、信頼関係を築いていく中で、三國シェフと塚原さんは会社をつくることを決意。
「引き受ける以上、町とは運命共同体。三國プランニングは、上川町のプロジェクトのためにつくった会社です。この会社から、レストランと同時に提案したのがおもてなし事業です」。
上川町の町民憲章には、「旅行者をあたたかく迎える」という言葉はある。しかし、行動が伴わない「おもてなし」には意味がない。ホテルや飲食店だけではなく、町全体で「おもてなし」に取り組むことを三國プランニングは提案。すぐに実践したのが、三國シェフの人脈から、ホスピタリティの権威である力石寛夫(ちからいし・ひろお)さんの講習会を全町民向けに開催。「フラテッロ・ディ・ミクニ」の堀川秀樹シェフによるレストランでのサービス研修なども行い、「おもてなし」の意識を徐々に町へ浸透していった。
今年も、旭ヶ丘の大地には、種が蒔かれ、いのちの芽吹きがはじまっている。次回は、旭ヶ丘に花を咲かせる「大雪森のガーデン」について。
北海道のほぼ中央に位置する、人口3741人(2017年3月現在)のまち。年間約200万人が訪れる「層雲峡温泉」、大雪山系を間近に望む「大雪森のガーデン」など、観光業を軸とする。もう一つの基幹産業は農畜産業と林業。標高が高い地で育つ「大雪高原牛」や「大雪高原野菜」は、町の特産ブランドとして全国へ流通している。
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