自由に楽しく「好き!」を発信する、えべつセカンドプロジェクト

江別市内の施設を借り、幅広い年代が楽しめる市民向け音楽イベントとしてえべつセカンドプロジェクトが開催した人気企画「Brick Party」(写真提供:えべつセカンドプロジェクト)

まちのPR映像を作ったり、近隣エリアと合体したバーチャルな町を提案したり。コロナを機にネットラジオを始めるなど、多彩な方法で江別の魅力をアピールし、市内外から注目を集める「えべつセカンドプロジェクト」。“江別大好き!”な市民有志による活動は、自由で愉快なまちの模様を紡ぎ出している。
新目七恵-text 伊藤留美子-photo

市役所ファーストなら、ぼくらはセカンド

「江別市役所がファーストならぼくたちはセカンド。」
公式サイトでもFacebookでも、えべつセカンドプロジェクト(通称・セカプロ)の紹介文はこう始まる。

「えべつセカンドプロジェクト」のロゴ。デザインは代表の山崎啓太郎さんが担当した。(画像提供:えべつセカンドプロジェクト)

「えべつセカンドプロジェクトは大好きな江別をぼくたちなりに表現し、サポートしていく非公式なプロジェクトです。」と続くのだが、まちづくりの市民団体が、なぜことさら市役所を意識するのだろう。もしや何か恨みでも…?と尋ねた私に、代表の山崎啓太郎(やまざき・けいたろう)さんは笑って答えた。
「いいえ、違います。まちづくりの中心は市役所ですが、自治体では担えないこともある。そこを無理に求めるのではなく、江別大好きな人たちで地に足をつけて楽しみながらやっていこう、という思いを込めています」

「江別をフィールドに、好きなことをデザインして遊んでいる感じです」とセカプロについて話す山崎さん

まちづくりの現場でよく聞かれる「官民協働」の理想的な言葉に思えるが、山崎さんの本職はデザイナー。江別に移住する2011年まで住んでいた札幌では、特にまちづくりに関心はなかったという山崎さんに、何が起こったのか? まずはセカプロ発足の経緯を聞いた。

 

とりあえず始める。楽しいなら続ける。

「きっかけは、近所に子どもが増えるといいな、と思ったことなんです」と山崎さんは振り返る。移住した2011年当時、娘が通う江別市内の小学校の児童数は減少。ところが住んでみると、江別は自然豊かで、隣接する札幌への交通アクセスも良く、子育て環境として申し分ない。「江別のブランド価値を高めたい」という思いを抱いたのは、移り住んで3、4年が経った頃のことだった。
そこで山崎さんが足を運んだ先は、「community HUB 江別港」。江別・大麻銀座商店街の空き店舗を活用した地域交流拠点で、2019年のカイ特集(本が並ぶところ)で私が取材した場所でもある。
「まずは友達を作ろうと。そこで知り合いを広げ、意気投合した仲間と始めたのが、セカプロです」。
メンバーは30~40代の主婦や会社員ら約5人。「発足」と言っても、堅苦しい会議や定期的な集まりはなく、飲み会やSNSを通じたやりとりで意見交換。参加も強制せず、企画ごとに関わるメンバーが変わるスタイルだ。
「お金をかけず、とりあえず小さく始めて、楽しかったら続ける。飽きたらやめる、がモットーです」と山崎さん。「全体的に軽いノリですね」と笑うが、仕事や家庭など日々の暮らしと両立させるためには、しごくもっともで、大切な心構えといえるのではないだろうか。

 

フットワークをデザインで後押し

セカプロの公式Facebookを開くと、「楽しかったから続けた」と山崎さんが言うさまざまな活動の軌跡を見ることができる。
たとえば、江別の良さをPRするオリジナルムービーの制作。地元のドローンクラブや近郊で活動するミュージシャンに協力を求め、ハッと目を引く美しい風景に心和む音楽を組み合わせた数分間の動画作品は10本余りに上る。

動画作品は札幌駅前通地下歩行空間(チカホ)の北2条広場(Sapporo*north2)でも上映され、市民手作りのシティプロモーション映像として注目を集めた(写真提供:えべつセカンドプロジェクト)

2017年に始めた「Brick Party(ブリックパーティ)」は、江別市内のバーや施設を会場に、音楽を楽しむDJイベント。「子どもも足を運べるように会場は禁煙にして、選曲も工夫したところ、赤ちゃんから年配の方まで来てくれた。みんな、エンタメを待っていたんだなと実感しました」と山崎さんは手応えを語る。

コロナに見舞われた2020年まで10回以上開催された「Brick Party」。「そもそも江別にはクラブがない。だからこそDJパーティをするのも面白いんじゃないかと考えました」と山崎さん(写真提供:えべつセカンドプロジェクト)

江別市と生活圏が重なる新札幌・厚別区を合体させたバーチャルな町「江厚別(えあつべつ)町」の提案も、セカプロならではの自由な発想といえる。自治体の枠を超え、エリアの魅力を見詰め直そうというユニークなアイデアは、遊び心も相まって多くの住民の心をとらえた。

こうした取り組みはインターネットなどのSNSを通してあっという間に拡散され、話題を呼んだ。さらに、注目を効果的にしたのは、山崎さんのデザインによるところが大きいだろう。
「言い方は悪いですが、僕は“やっている感”を出すのがうまいんです。たとえば、ロゴマークを1個作ってFacebookにアップするだけで、打ち合わせから一歩前進します。活動をデザインで後押しできるのは、セカプロの強みかもしれません」

山崎さんがデザインした「江厚別町」のロゴ。2つの山は江別と厚別、グリーンは野幌森林公園の緑を表している。(画像提供:えべつセカンドプロジェクト)

「フットワークの軽さ×デザイン力」というセカプロの武器が思わぬ形で反響を呼んだのが、2018年、北海道胆振東部地震の時だった。停電を経験した山崎さんは、仲間と携帯電話のメッセージでやりとりし、30分程度で節電を呼び掛けるロゴを作成。地震発生からわずか3日後にSNSで発信したところ、江別市内の公共施設や大学機関が掲示。さらに、札幌や函館、小樽などの自治体や企業、団体など、賛同の輪は全道規模に広まった。

「〇〇節電大作戦」と題したセカプロの節電キャンペーンは、市民発の取り組みとして波及した。(画像提供:えべつセカンドプロジェクト)

セカプロの活動が注目を呼び、さまざまな立場の人と接することが増えた山崎さんは「自分はデザインできないので…と言われることもありますが、僕の場合はデザインだっただけ。ライブでも絵でも、それぞれが思いつくアイデア、やりたいことをまずはできる範囲でやってみることが大事だと思います」と話す。好きなこと、やりたいことなら、たとえ失敗しても不満は出ない。一見自由なセカプロの取り組みは、まちづくりを自分事として捉え、手探りでも挑戦する面白さを教えてくれる。

 

ぼくがこの街を好きな理由

「思いつきのアイデアを勢いで!」というセカプロの精神は、コロナ禍でも発揮された。苦境に立つ飲食店を応援しようと、江別市内のテイクアウトや宅配サービス情報を公式サイトやFacebookで積極的に発信。さらに、ステイホームでも楽しめるものを、と2020年4月から始めたのが、「BRICK RADIO」。“江別人による江別のための駄話ラジオ”と銘打つネットラジオ番組だ。



「BRICK RADIO」のパーソナリティーは「Brick Party」のDJも務める龍田昌樹さんとセカプロメンバーの三ツ井瑞恵さん。毎回、小学生から農家、飲食店店主、アーティスト、美容師など多彩な江別人がゲストとして出演し、江別在住の直木賞作家・桜木紫乃さんが登場したり、江別出身の陸上選手・右代啓祐さんがリモート出演したことも!(写真提供:えべつセカンドプロジェクト)

江別や近郊市町村の出来事を題材に、ゲストを交えてトークする約30分間の番組は、なんと週一のペースで配信し続け、この7月で60回を超えた。プロデューサーの山崎さんは「パーソナリティー2人と毎週アポ取りし、収録・配信するのは正直しんどい。でも、聞いてくれる方が増え、知らない友達がどんどん増えるのが面白い」と語る。聞けば、ゲストの方は基本ノーギャラ。それでも出演者が絶えないのは、セカプロの思いが浸透し、協力の輪が広がっている証拠だろう。

山崎さんに改めて、「江別の魅力は何ですか?」と尋ねてみた。
すると、「好きな友達がたくさんいること」と意外な答えが返ってきた。「江別に来てから、僕はものすごく友達が増えました。それも、校長先生や美容師、飲食店、農家、ホテル支配人、警察官、市役所や市議の方など、今まで知り合えなかった職業の方ばかり。価値観も広がったし、小さなまちなので友達同士がつながることも少なくありません。この距離感がちょうど良いんです」。
自然豊かで、北海道遺産・れんがの歴史を誇り、小麦生産地としてパンやラーメンなどグルメも豊富なまち・江別。でも一番の魅力は、「人」。そう聞くと、まちとの距離がぐんと縮まり、親近感を覚えるから不思議なものだ。
「計画も展望も特にありません。もしかしたら次は、セカプロとは全然違うことをするかもしれませんね(笑)」と話す山崎さんたちセカプロのメンバーは、どんな形にせよ、きっと新しいまちの模様を編み出し続けるに違いない。

えべつセカンドプロジェクト
WEBサイト 

旧レンガ工場を拠点に2016年オープンした商業施設「ËBRI(エブリ)」。「えべつセカンドプロジェクト」のイベント会場になったこともある

ËBRI(エブリ)
北海道江別市東野幌町3-3
TEL:011-398-9570
WEBサイト 

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